妖怪大魔王・コバ法王の日記

NPO法人GRA代表、妖怪:小林が書く、オートバイや人生、社会や文化など、日頃思っている事です

スプリング 番外編 / オートバイ業界の良識について

多くの人は意識していないと思うけど、サスペンションのスプリングはオートバイの性能や性格、安全性を決定するとても大切な要素だ。 だから、“ スプリングフェチ ”と自称する僕は、いつもスプリングの事で色々と考えたり悩んだりしている。

今回、スプリングの事で色々と体験して考えている事があるけど、それはみんなにもとても関係ある事だと思うので、関心のある人は是非、読んで欲しい。



『 オートバイ業界の良識 』

今回、トラ君のリアスプリングの事で書いたけど、そのスプリングに関連して “オートバイ業界の良識” についても書いておきたい。
それは、オートバイ業界の中にある、商売優先・利益優先主義の風潮によって、オートバイを購入した人の利益や安全が軽視されている事を伝えたい。
 
僕達がオートバイを購入する時には、殆どの場合は専門誌に書かれた内容や販売店の人の言葉を聞いてから考え、それから購入を決めると思う。
じっくりと考えたくなる程に、オートバイは趣味性の高い乗り物だし、気軽に次から次に買える品物でもないし、その性能や乗り味などで楽しみも大きく違ってくるから当然だ。  

しかし、専門誌や販売店に限らず、いつも正しい事を全て伝えているとは限らないし、僕達の事をいつも考えてくれている訳ではない。
例えば専門誌でよくある事は、新型車が出る度に 「 全モデルでは〇〇に不満があった点が改善されて ・・・ 」という表現を見掛けると思う。 それが無かったとしても、新型車として登場して一番注目されている時には、「 ほとんど全てが改良されて良くなっている 」という表現しかされていないのが普通だ。 だからこそ、新型車に心が奪われそうになった僕達は、そんな華やかな記事や販売店が販売車の事の良い所だけを言う言葉を信頼して、期待をして購入を決めたりする。
 
でも、それはオートバイ業界全般が商売優先・利益優先で働いている結果で、僕達の利益や楽しみを最優先で働いていない事を忘れてはいけないと思う。
 

 

『 トラ君での体験 』

僕も乗っている トライアンフの事を伝えよう。
僕はトライアンフ車を2台持っている。 一台は いつも使っている「トラ君」(ストリートトリプル)で、もう一台は そのレーサーレプリカ車(今の表現では SS車)のデイトナ675だ。
トラ君を購入を決める際には、雑誌も読みあさった後、幕張のショー会場でその 2台を2時間以上見比べて、「 トラ君にデイトナ675のパーツを移植する事でスポーツ的走行ができそうだ 」と考えて、先ずは トラ君を1台の購入を決めたのが 2007年の暮れだ。

トラ君を新車で購入した後、直ぐにデイトナ675用のスイングアームのピポットプレート(純正品)の手配をした他、同じくデイトナ675用の社外製リアサスペンションユニットも購入手配をしたがこれが疑問の発端だった。
実は、一般道では能力を活かしきれない程に高いスプリングレートのスプリングが組み込まれていたのだ。

トラ君が納車された時に入っていた純正スプリングは、計算で 約 9.1 kgf/mm (ポンド法では 約 510 LBS / inch)で、デイトナ 675用としてセットされていたスプリングは 675 LBS / inch と 3割以上高いレートのスプリングだった。
実際、購入して暫くは 初めての車両という事もあって、「 これで乗りこなせるようにするんだ 」と疑問に思わなかったけど、他の車種と乗り較べている内に、徐々に 「 このスプリングレート では使えないのでは? 」と考える様になって、最初は 625 LBS / inch のスプリングに換装して、その乗り易さの変化に感激して、次に 600 LBS / inch を経験して 、そして 575 LBS / inch の 仕様が 一般道だけでなく スポーツ的走行で一番最適だと確信したのが購入7ヶ月後の事だった。

「 この 675 LBS / inch という異常に高いレートのスプリングで 他の人は楽しめているのかな? 」という疑問を抱き始めた頃、その疑問を解消できる体験があった。



デイトナ675 の街中走行 』

トラ君の部品取り車(ドナー車)として 中古の真っ赤なデイトナ675 を購入した。
車両は全くノーマル車だったから リアには 675 LBS / inch のスプリングが入っている訳だけど、そのまま自走して自宅に戻る道中、「 このオートバイ、サスペンションの設定がハード過ぎて、一般道を真っ直ぐ走るのも楽しめないし、リアのグリップが感じられないから街角を曲がるのも怖い! 」と恐怖さえ感じながら帰った体験だ。

それまでも、日本のレーサーレプリカ車(SS車)と言われる車両、NSR250Rを始めとして CBR900RR など、に乗った体験は数多くあるけど、街角を曲がるのに恐怖に感じた事はないし、こんなにハードな設定のサスペンションの車両は無い。
もちろん、メーカーがレース専用車、またはそれにかなり近い特殊な車両として販売しているならば文句は無い。が、ナンバープレートを付けて一般ライダーが走る事が想定できるならば、少なくとも 専門誌のライター や 販売店の担当者は「 特殊な車両ですから、それなりの用途や割り切りが必要ですよ 」と言うべきだろう。

しかし、興味ある車両は寸法から重量まで読み、インプレッション記事も何冊分かストックして検討している僕に限らず、購入した後で「 こんなモノかな? 」「 乗り方が悪いのかな? 」と思ってしまう人達にとって、利益を損ねているだけでなく、安全の危険性にも繋がる良識の問題だと思う。



『 業界への警鐘は 』

これは トラ君のメーカーや兄弟車種の事を悪く言いたくて書いているのではなく、業界全体として売上に繋がらない事は言わず、良い面だけをライダーに伝え続けている弊害の大きさを言いたいからだ。

例えば、カスタムバイクが雑誌を賑わせた 1990年代、雑誌にはどう見ても操縦性や安全性、環境騒音を疑わせる車両が載り、ライターは良さそうな事ばかりを書き、パーツメーカーは車両全体の操縦性や安定性にはさほど配慮されていない部品の広告を出して販売をしていたのが普通だし、今もそれは続いている様に見える。

また、オートバイは乗る人の体格や技量で選ぶべき安全性とモラルが問われる乗り物なのに、メーカー正規販売店でさえ、乗る人の体格に合わせ「 足着き性を良くておきますので、安心して乗れますよ 」と言って、操縦性と安全性に大きく影響する 低車高化の改造を平気で行なうのは最近に始まった事ではない。

そして、それら業界全体の良識問題に対して警鐘を鳴らす人が少ないのも大きな課題だろう。



『 これからの事 』

今回は、自称  “ スプリング フェチ ”の僕が経験した スプリング談をきっかけに書いたけど、これからは スプリング以外の切り口を通して、僕達が頼らなくてはいけない オートバイ業界全体を良くしていくための記事を書いていきたいと思っている。

その時には、「 妖怪・小林 」としてではなく、「 GRA代表 」として書く事になると思うので、NPO法人GRA の記事も時々は注目してもらえると嬉しい。




< 追伸 >

では、スプリングやサスペンションユニットの事で、今回と同じ様に疑問を持つ事ばかりだったかと言えば、そうではない。 逆に、きちんと 優れた知識と経験を基に配慮溢れた製品メーカーを知っているからこそ、今回の事を残念に思っているのだ。

それは 1990年代、当時所有していた ブロス という車両で体験した事で、前後サスペンション用にオランダのWP社(当時の社名はホワイトパワー)の製品を購入して装着したところ、それはとても良く出来た製品で、ほとんどセッティング出しに苦労する事なく、車両の性能を大幅に向上させる“魔法の杖”みたいな製品だった。
 
特に目を惹いたのは フロントのスプリングで、通常であれば 純正のスプリングと同等のスプリングレートで純正と同じ長さの製品を販売するのが普通だけど、当時の WP社のブロス用の フロントスプリング は、スプリングの線径がずっと太く、全長もずっと長く、純正の カラー(フォーク内部のスペーサー)を取り外して装着する指定だった。(こんな仕様の製品は 後にも先にも見た事が無い)

実際に使ってみると製造者の意図がはっきりと伝わる製品で、フォーマルにもスポーティにも懐深く受け止めてくれたので、当時参加していたジムカーナ競技では連戦連勝が楽に達成できたほどだった。
こんな完成度の高い製品を作るには、車両を購入して、熟練のテスターがスプリングやユニットを数種類試作して、実走行テストを行なわなければ不可能な事だ。
そのお蔭で、僕はオートバイの走らせ方を 熟練テスターに学ぶ事ができたと信じているから、逆に、ロクに走行テストを行なわず、商売優先・利益優先の様な製品を見る度にちょっとした怒りも覚えているのだ。