前回まで、タイヤ表面に残る “ 摩耗痕 ” から運転している人のライディング
傾向や癖が判断できる事を説明してきた。
更に、スポーツ走行が好きな人であっても、下の図の様に、コーナリング中
の遠心力によって出来る “ 摩耗痕 ” しか無い場合が多い事。
そして、その “ 摩耗痕 ” では決してタイヤとオートバイの能力を使いこなした
ライディングになっていない事を説明してきた。
今回は、何故、下の図の様な“摩耗痕”だと使いこなしていないと言えるのか?、
使いこなしたら、どんな “ 摩耗痕 ” になるのか? の説明をしたい。
『 バンク走行時、加減速による “ 摩擦力 ” 』
では、バンク走行時の、リアタイヤと路面との接地面の位置と形を確認しよう。
タイヤの中心部からバンクさせた側に、つぶれた楕円形の様な接地面がある事がわかる。
次に、バンクさせたまま加速や減速をさせた時、その接地面にどんな力(摩擦力)がかかるのか、下の図を見て考えて欲しい。
〇 【上部の左の図】・・前回も説明した通り、タイヤには遠心力による摩擦力が働く
〇 【上部の中央の図】・・減速している時には、減速による摩擦力が働く
〇 【上部の右の図】・・加速している時には、加速による摩擦力が働く
図で説明している様に、バンク時に減速している時には、(上の図の下部・左の図の通り)遠心力による摩擦力と減速による摩擦力が一緒になった “摩擦力” が働く。
同じ様に、バンク時に加速している時には、(上の図の下部・右の図の通り)遠心力による摩擦力と加速による摩擦力が一緒になった “摩擦力” が働く事が分かる。
そして、“摩擦力” の向きと “摩耗痕” の向きとは 90度 になる法則は変わらないから、バンク走行時、タイヤを使いこなす走りをすれば、その時の “摩耗痕” は タイヤの向きとは平行にならない事が導き出される事になる。
『 お勧めする “ 摩耗痕 ” 』
バンク走行時、加減速による力(摩擦力)がタイヤに働くと、タイヤの向きに対して斜めの方向になる事が理解できれば、“摩耗痕”も斜めの方向に残る事が理解できるだろう。
では、いよいよ、タイヤの能力を使いこなしたバンク走行をした時、どんな “摩耗痕” になるかを下の図で説明をしたい。
図の中の左側の図は、フロントタイヤを車体前部側から見た図で、右側はリアタイヤを車体後部側から見た図。前後タイヤそれぞれの“摩耗痕” は、タイヤの向きとは平行にならず、ある一定の角度になるのが、お勧めしたいタイヤの能力を使いこなした“摩耗痕”だ。
ここで、この図を見た人の中には、きっと疑問を持つ人もいるだろう。
「 バンクさせてコーナリングしている時、フロントブレーキは使わないので、
そんな “ 摩耗痕 ” はムリ 」
「 フロントタイヤは安全な旋回に専念するべきで、ブレーキを使うのを前提に
するのは危険では? 」と。
もちろん、今まで通りの走り方で楽しく安全に走行できているなら、それでも結構です。
ただ、すべてのタイヤが備えている能力を正しく理解して、それを適切に使いこなす事が出来れば、同じ様な速度で走る限り、もっと楽しく安全なライディングができる事も間違いのない事実。
実は、タイヤが備えている特性上から、どんなオートバイもバンク走行時にはブレーキ(減速)の力が必ず働いている事と、それを意識して利用すればオートバイはもっと自由自在に走れる事だけは覚えておいて欲しい。
バンク時に働くブレーキ“バンキングブレーキ”発生の原理の説明と、それをきっかけに生まれる“ コーナリングブレーキ ”や “旋回モーメント”について、次の項で少し説明をしようと思う。
『 バンキング ブレーキ は旋回の始まり 』
先に書いた「 “バンキング ブレーキ” はどんなオートバイにも備わっている特性 」という事について、下の図で説明をしよう。
オートバイのタイヤの形状が、長年の試行錯誤の結果、現在の様な形状になっているのには様々な事情やメリットがあったからで、その中でもタイヤ中央部が一番高く盛り上がた形状は、オートバイの旋回(ターン)特性に大きな影響を与えている。
タイヤ中央部が一番高く盛り上がっているという事は、タイヤが回転している時、その中央部の外周の速度(周速)は、トレッド端部の周速(外周の速度)よりも必ず速い事が分かる。逆に言えば、タイヤのトレッド端部の周速(速度)は、必ず中央部より低いという事だ。
それによって、オートバイを直立走行状態から一気にバンクさせた場合、路面と接地している部分は、タイヤの周速が高い所から一気に低い所へと変わるので、必ずブレーキを掛けたのと同じ状態が生まれる。これが “ バンキング ブレーキ ” だ。
オートバイ特有のタイヤ形状から生まれる、この “バンキング ブレーキ” は、タイヤ幅が広くてエンジンブレーキも加わる リアタイヤ の方が出やすいが、フロントタイヤにも必ず発生していて、その“バンキングブレーキ”を意識して活かすか否かで、コーナリング時の旋回特性や安全性が大きく影響を受けるから、“摩耗痕”でのライディング検証が大切になるのだ。
バンクさせるだけで生まれる“バンキングブレーキ”だからこそ、それを活かしたライディングをすれば、仮に前後ブレーキを一切使わないコーナリングをしたとしても、フロントおよびリアタイヤ共に、その時の“摩耗痕”はタイヤの向きとは平行にならない。
また、この“ バンキング ブレーキ ”を活かした走りから “ コーナリング ブレーキ ” が生まれ、それが前後タイヤの“ 旋回モーメント ” の発生に繋がり、オートバイ独特のコーナリング特性が生まれているのだが、この事は“摩耗痕”の解説ページではなく、別の機会で説明をしよう。
では、次の章で、実際の車両のタイヤ画像で “摩耗痕” の検証と説明をしよう。
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次回は、実際の車両のタイヤ画像を、走行条件などと一緒に紹介して、検証する予定です。
なお、前回の説明文章で約束していた「リアステア モーメント」は、別な機会、「バンキング ブレーキ」の解説ページの中で、“旋回モーメント”の一つとして解説する予定です。
この解説記事が、タイヤとオートバイの理解を深めて、あなたのオートバイ・ライディングを更に安全で楽しくする助けになる事を期待しています。
だから、次回の記事も、乞うご期待。
< 解説文章と画像 :小林 裕之>
http://gra-npo.org/lecture/ride/tire%20diagnosis/img_Tire%20diagnosis.html